エクステリアプランナー・高橋輝匡が語るパブリックガーデン

狭小地の一軒家から広大な豪邸まで、様々なジャンルでエンドユーザーの気持ちを反映させたエクステリアデザインを手がけているガーデンプランナーの高橋輝匡さん。今回リフォーム工事を行った物件は、マンションのエントランスからカースペースと、沢山の居住者が毎日行き来するパブリックスペースでした。オーナーの要望やデザインのコンセプトなどに迫ります。

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ーオーナーが今回のリフォームで一番望んでいたことはどんなことでしたか?

高橋:中古マンションを購入された新オーナーの方は、まずシンプル過ぎる外観を変えたいと望んでいました。購入された当初は、良くも悪くも「郊外のマンションと言えばこんな感じだよね」って外観でした。まずはそこを大幅に変えたいと。

 

ーオーナーの意向も大事ですが、集合住宅だと様々な人の思いや意見がありそうですよね。マンションのお庭はオーナーよりも居住者の方が多く目にすると思いますが、沢山の居住者の方に対しては、どのようなデザインで応えようとしましたか?

高橋:僕もこの辺りに住んでいるので分かるのですが、都心からやや離れたこの地域には沢山のサラリーマンが毎日電車に揺られて都心とマンションを行き来しています。夜遅くに帰ってきたとき、ひと目見て一瞬でもほっと出来るようなデザインにしたつもりです。

 

ー確かに、様々な植栽がライトアップされた風景は見るだけで気持ちが癒やされそうですよね。

高橋:ええ。それに夜だけでなく、日中も十分楽しめるよう自然と人が集まれるような空間も設けています。子育てと仕事を両立しているお母さんがたもいらっしゃいますので、お子様の送り迎えの合間に新たに設けた玄関前の団欒スペースで過ごしていただけたらと思います。

 

ー居住者のみなさんが、帰ってくる度にホッと出来るような空間を意識してデザインされたんですね。

高橋:はい。もちろん、デザイン面だけでなく機能面・安全面も考慮してプランニングしました。通常のエクステリア工事でしたら施主様は1家族なので様々な要望を漏らさず聞き出せるのですが、今回はマンションですから全てのご家庭の要望を聞き出すことは出来ません。

 

ー確かに、全ての居住者の方の意見を聞き取るのは実際には難しそうですよね。

高橋:ですので、デザイン面は多くの方に受け入れられやすく、お子様からお年寄りまで愛着を持ってもらえるような自然豊かな雰囲気を意識しました。機能面・安全面においては、もともとオーナー様が不満をいだいていた夜間の明るさの不足などを解消出来るようデザインしています。

 

ーなるほど。では細部のデザインについてお聞かせ下さい。一番最初に目に飛び込んでくる前庭はどのようにデザインしたのでしょうか?

高橋:まず目に入ってくるのは、広大な乱形石の床面です。コンクリートやアスファルトで仕上げるなら一日で終了ですが、やはり一番最初に見える空間は大事にしたかったので石貼りを選択しました。

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ーこれだけの面積を全て一枚一枚手作業で石を貼っていくのは、金額的にも労力的に大変だったんじゃないですか?

高橋:確かに、この石貼りは全行程の半分を占めたと思います。(笑)

ただ、長い期間がかかるのもの理由があります。アスファルトなんかはある程度の技術があれば誰がやっても同じ仕上がりになるでしょうが、石貼りは技術の優劣が素人でも判別が出来るくらい、職人の腕に左右される作業なんです。写真をご覧になればお分かりいただけると思いますが、目地とかも均一ですよね?

 

ーそうですね。これだけの細やかで手間のかかる作業は、携われる職人も限られてきそうですね。

高橋:そうなんです、そこが石貼りの最も大事なところです。早く終わらせるために十分な技術を習得していない職人を大勢集めてやらせては場所によって上手い下手が出てきてしまうので、信頼に足る少数の職人のみ作業にあたってもらいました。時間はかかりましたが、こだわったおかげで熟練の職人による細やかな石貼りがマンションの雰囲気をワンランクアップさせたと思います。

 

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ー石貼りのエントランスも見事ですが、周囲の植栽も見応えがありますね。この植栽もオーナーのご要望ですか?

高橋:はい。既存の状態は芝生や低木は枯れかけ、手入れの施されていなかった三角状の空間は道路からとても目立っていました。まずそこを大幅に削り、緑豊かな植栽スペースとして蘇らせました。

 

ー工事前の写真と比べると、ここが一番変化がある空間ですね。花壇といえば平面的なデザインを想像してしまいますが、なぜこのように立体的にデザインされたのでしょうか?

高橋:ここはもともと勾配のある土地なので、新たに造作した花壇は高低差を活かして作り立体感を強調しています。段々畑のように植栽スペースを配置しているので見た目にも楽しくなっていると思います。

 

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ー植栽スペースには金物のアイテムも多数使われているようですね。

高橋:逆L字状に立っているものはガーデンライトです。当初は大きな柱と梁を設けてゲート状にしたものにライトを取り付けようと考えましたが、それだとそこを通るのに高さ制限が生まれてしまい、通れる車が限定されてしまいます。ですので、ゲートよりはコンパクトですがスタイリッシュな雰囲気のライトを選択したのです。

 

ー夜のシーンは本当に光で溢れていますね。実際に目の当たりにしたら写真で見るより美しい空間なんでしょうね。お庭に取り入れた光にポイントはありますか?

高橋:植栽を照らすのは背の高いライトだけでなく、植栽の間に点在させたポールライトもあります。様々な位置・高さから明るさを取り入れているので、安全面にも配慮したラグジュアリーなデザインになっています。

 

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ーやはり何と言っても夜になるとネームプレートが一層目立ちますね。

高橋:そうですね、以前のネームプレートは大きな躯体のマンションに対してとても小さい看板でしたので、これでもかというくらい目立つ存在にしてみました。(笑)

 

ーネームプレートにはどのようなこだわりを込めましたか?

高橋:やはり一軒家の表札と同じく、マンションのネームプレートもそこを通る人が必ず目にする、言わば「家の顔」なので、シンボリックに仕上げるべきだと思いました。一つ一つが光る切り文字のネームプレートは帰ってきた方を明るく出迎えてくれるので、居住者の方々はマンションを「自分の大切な家」と思い愛着を抱いてくれていると感じています。

 

ー確かに、このネームプレートは見応え十分ですものね。友達や遠方のご家族を呼んだ時は、絶対に自慢したいポイントだと思います。

高橋:後日オーナー様とお話する機会があったのですが、ネームプレートは皆さんに好評らしく夜にたくさん写真を撮っていたそうです。そういうご報告を受けると、やっぱり嬉しくなりますね。

 

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ーところでビフォー写真を見ると、ネームプレートが立つ場所にはカラーコーンがありますね。

高橋:はい、リフォーム工事前はそこが違法駐車をよくされる場所だったそうです。もちろん居住者の方々ではなく外部の人間の車です。広いし夜は薄暗いし、ちょうどいいスペースだったようですね。

 

ーどんな人が停めているか分からないから、居住者の方々は不安だったでしょうね。

高橋:そうですね、小さなお子様がいらっしゃるご家庭もありましたし、不安は感じていたと思います。なので、まず不要なデッドスペースを無くすため花壇をライン状に作りました。その周囲もライティング計画をしっかりしたので、工事前とはまったく違う雰囲気になったと思います。きれいに整備して夜も常に明るくライトアップしたので、こそこそ車を停めに来る人もいなくなったようです。

 

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ー見た目だけでなく機能面もとても向上したんですね。以前にはなかったこのパネルはどのような目的で新設したのでしょうか?

高橋:三角状の植栽スペースの後ろに設けた大きなパネルは、居住者のお車を隠すためのフェンスです。お車を見られるのはなんとなく嫌、という声もあることを予めオーナー様から伺っていたので、多くのニーズに応えられるよう駐車場一帯をカバーできるようなパネルを設け、プライバシーの向上を目指しました。

 

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ーなるほど。最後に、エントランスについてお聞きします。ここも大きく変わりましたね、写真を見比べても同じ空間とは思えません。(笑)

高橋:確かに、全く違うデザインになりましたね。(笑)

以前は小さな花壇のみだったのですが、居住者の皆さんがくつろげる空間を作りたいというオーナー様のご要望を受けて大幅にリニューアルさせました。隣地境界線の仕切りはメッシュフェンスのみだったので、自然石風の擬石を貼った壁でカバーしプライベート空間を演出しています。そこに乱形石で造作したベンチを設け、周囲を色とりどりの下草とシンボルツリーで彩りました。

 

ーエントランスの前にこんな素敵な空間があれば、つい腰を下ろしてゆっくりしたくなりますね。入口前にあることで、自然と人との触れ合いが盛んになりそうですね。

高橋:はい、それが狙いです。つい足を止めたくなるような空間を作ることで、居住者の皆さんが自然に交流できる場所になれればという思いを込めてデザインしました。

 

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ーあとちょっと気になったんですが、アプローチ上に置かれたアライグマの置物がとても可愛らしいですね。

高橋:はい、それは車止めとして置いています。さっそくマンションに住むお子様たちの人気ものになったようで、学校から帰ってくる度に挨拶をしているようです。可愛い門番として、マンションに無くてはならない存在になったみたいです。

 

ー今回のマンションの大規模リフォーム工事は、デザインも施工もとても大変だったと思います。改めて振り返ってみて、いかがでしょうか。

高橋:普段の一軒家のエクステリア工事とは違い、沢山の人・家族が住むマンションのエクステリア工事は、プレッシャーがいつもの倍以上あったと思います。マンションの外構のデザインは初めてでしたが、僕のデザインが沢山の笑顔と交流を生み、オーナー様や居住者の方々に長く愛されるようなお庭になってくれれば嬉しいですね。